2016年の8月末、私は友人のフランス人指揮者、ロイク・ピエールから一通のメールを受け取った。それは、てんかんによって骨折した右肩の手術を受ける数時間前に出されたメールだと書かれていて、私は大層驚いたが、もっと驚いたのは、彼は手術を待つ病院のベッドで、新たなプロジェクトを考案していたことである。
彼は、どうやらエストニアの偉大な作曲家、ヴェリヨ・トルミスに対する敬意を、スカンジナビアのメロディーを新たな発想で作り替えた作品を集めたプロジェクトで表そうとしているのだった。
私は、そのプロジェクトの作曲家の一人に選ばれたわけであるが、私に与えられた仕事は、ノルウェーの聖歌をベースにした作品を作ることだった。
その聖歌とは、「Jeg ser deg, o Guds Lam」というもので、シンプルかつ美しい旋律であった。
静謐な中に生の鼓動を感じるこの聖歌を、私は日本語の歌詞を使って、次のようにイメージを膨らませた。
――冒頭は、ごくシンプルな女声によるユニゾン。続いて、オルガヌムのような響きの2声の掛け合いになり、やがてテノールとベースが『降って』くる。肉厚となった4声によるホモフォニーは、調性を変えてさらなる神秘な空間を作り出す。そこは、人間と自然が醸し出す豊かな空間だ。
私がこの曲を書き上げたのは、2017年の5月。ヴェリヨ・トルミスはすでに帰天していたが、だからこそ、この神秘の世界を表現できたかもしれない、と思っている。
ロイクとミクロコスモスは、私が思い描く超次元的な世界観を見事に表現してくれた。私が書いた音以上の響きを引き出してくれたのだ。それは、倍音が豊かに、そして確実に鳴っていることを意味している。この、不思議な世界を、多くの合唱団の皆さんにも味わって欲しいと思う。
製本版とデジタルスコア版(ダウンロード版)の2種類あります。以下でどちらかを選択して下さい。
— もしくは —
作曲者: 松下耕 作詩者: えびはらみなみ 声部: SATB 伴奏: アカペラ 言語: 日本語 演奏時間: 4分25秒 ページ数: 8
◆演奏情報◆ 指揮: Loïc Pierre 合唱: Chœur Mikrokosmos